当社お得意様の AtsushiB3Sさん が木下みつひろプロとお会いになったそうで、その時のお話を仔細に、みんからブログに書いて下さいました。ご了解を得ましてご紹介致します。
木下選手は、私のB3Sに多数装着されている「オレンジウルフ」製品(車高調式サスペンション、ブレーキパッド、ワンウェイバルブ、バケットシート等)の開発アドバイザーで、私もガルフストリームでお会いしたこともある方です。
今回は、一通りのモディファイが完了したB3Sについて開発者の感想を伺うことと、ご自身もケイマンSに乗られてるレーシングドライバーにGT4のインプレを聞いてみたい、との趣旨で試乗をお願いしました。
試乗後、当然のように、私があれこれ質問して木下選手が答えるという会話になりました。
A) 私のB3S、どうですか?
K) いいクルマに仕上がってると思います。あのサスペンションは強いスプリングを使ってるんですが、狙い通り乗り心地もすごくいいですよね。今6~7段戻しとのことですがもう1段硬くしてもいいくらい。
A) どうやったらあんな脚ができるんですか?
K) 僕がすべてのクルマに乗って車種毎にベストな仕様とセッティング決めてますから(笑)。メーカー品とは比較にならないほど手間とコストが掛かってるんです。あと、どんな脚でも僕が最後に「あること」をやるとすごくいい脚になります。
A) えぇっ!「あること」っていったい何ですか?(←間抜け)
K) (笑いながら) それは、もちろん秘密です!
A) 交換してもう4万キロ以上乗ってますけど、そろそろオーバーホールの時期ですか?
K) まだ全然大丈夫じゃないですか?ダンパーは日本ではまず左側からダメになるって知ってました?
A) 初耳です。LHDだと運転者の重さがかかってるから?
K) 違います(笑) 日本の道路はマンホールなどの凸凹が道路の端(左)にあるので、ショックをより多く受ける左側がまず劣化するんです。
A) へぇぇー!(←間抜け②)
A) カーボンLSDすごく良さそうですね。B3Sには適応なくてクワイフを付けてますが。
K) あれは画期的な製品でLSDではベストですね。カーボン素材の特性から、どんなにイニシャルトルクを上げても繋がりがスムーズで作動がマイルドのままなんです。ATSが「こんなLSD見たことない」って驚いてました(笑)
A) ワンウェイ・バルブって実際のところ効果あるんですか?
K) かなり効果高いと思いますよ。アクセル一定の時はいいんですけどブローバイガスが逆流するような時は燃焼効率やレスポンスに悪影響が出るんです。あのリードバルブの仕組みはジェットスキーのエキゾーストからヒントを得て作ったんです。
A) なんで最初からメーカーがそういうことやらないんですかね。
K) まずはコスト、そして安全マージンの確保。メーカーは非常に保守的で余計な部品は極力使わない体質なんです。
K) Aさんのブレーキよく効きますけど換えてます?
A) (よくぞ聞いてくれました!) 当然、OW850に換えてます!
K) あのブレーキいいでしょう。
A) はい!効きもタッチも最高ですね。ダストもほとんど出ないし。
K) ブレーキパッドの開発は結構難しくて、ゴムの量とかの材質やシート材などまで徹底的に拘って、共同開発したDixcelさんから「そんなパッドできないですよ!」って泣きが入ったのを「他に無いから売れるんです!」って言って、耐フェード、耐摩耗、鳴き、低ダストを追求して出来上がった製品なんです。
A) ブリッドのバケットシートも木下さんプロデュースですか?
K) はい。あのシートはクッション素材にすごく拘って、座ったときにクッションが潰れ切らないような素材と構造になってるんです。そうするとサポート性能がすごく高くなるし長時間座ってもお尻が痛くならないんです。
A) 木下さんはハンコックのタイヤ開発にも深く関与されてますよね。
K) はい。ずっと一緒に開発してます。日本のハイスペックタイヤも悪くないんですけど、耐久性がないんですよね。ゴムの材質と構造の工夫で耐久性のあるタイヤがいくらでも安く作れるんですけどね。
A) 私はミシュランのタイヤはかなりいいと思うんですけど。
K) ミシュランはいいと思います。ヨーロッパのタイヤメーカーは一発のグリップよりも終わりまで安定した性能を重視しますから。でもミシュランは高いですよね(笑)
A) なんであんなに高いんでしょうか?
K) 流通経路が複雑でマージンが乗り過ぎてるんです。メーカーから直接仕入れて売ったら何分の一かで済むと思いますよ。
A) ところでGT4はどうでしたか?
K) 最高のポルシェじゃないですか?特にあのシートとブレーキは最高ですね。あとは、やっぱりミッドシップなとこがいいですね。911は運転が難しいから。僕もほんとに欲しかったんですけど、ケイマンSをオーダーした直後に発表になって。
A) ポルシェはなんであんなにいいんですかね?
K) ポルシェの開発チームはみんなサーキットを普通に走ってるような連中ばかりで、一般道も含めてかなり実走してクルマを仕上げてます。耐久性のテストだけじゃなくて様々なシチュエーションでクルマ全体のバランスを確認してるんですよね。
A) ミッドシップはどう運転するんですか?
K) まず、一般人がサーキット走るとほとんどの人がコーナーで突っ込みすぎてます。もっとマイルドにブレーキングして、ミッドシップの場合はフロントに荷重の残ってるブレーキングの途中からステアリングを切ってクルマの姿勢を変えてしまいます。そして早い段階でスロットルを開けていきますが、ミッドシップはFRに比べてリアのトラクションが効いてますからそんなにオーバーステアを出さずに抜けられます。
A) あと、ヘアピンとかでステアリングを思い切り切るとき、手を持ち替えてます?
K) 持ち替えないですね(笑)
A) でも腕がクロスしてるとステアリング操作がしづらくないですか?
K) そうかも知れないけど、持ち替えるとステアリング切ってる量とかセンターの感覚がわからなくなるから。
A) やっぱりそうなんですねー!(←間抜け③)
A) ところで、木下さんはカートからレースを始めたそうですが、最初っから速かったんですか?
K) カート乗り始めて何日かは練習しましたけど、最初のレースで優勝しました(笑)
A) いつもどういうことを考えてクルマをセッティングしてるんですか?
K) 一言で言うと「安心感」ですね。「安心して乗れるクルマ」が一番速いクルマなんです。あとは「操作の容易さ」ですね。ステアリングでもクラッチでもシフトでも基本的には操作が軽いほど速く走れます。
A) オレンジウルフの製品はどうですか?
K) 自分で言うのも何ですけど、ああいうパーツは他に無いんじゃないですか。メーカーと徹底的にやりあって全て僕がテストして車種毎に最適な仕様で作ってますから。
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と、2時間以上色んなお話を伺いましたが、木下選手はとにかく「すごい人」でした!
ここでは、恥を忍んでバカな質問なんかも含めて印象に残ったやり取りだけ書いてみましたが、何を聞いても的確な答が返ってきて、理論も知識も経験も持ち合わせたオールマイティな方って印象です。
それでいて謙虚で純粋で、こういう素晴らしい人材が日本のモータースポーツ業界にいること、また今回直接お話しできたことは、大変ラッキーなことだと強く感じた次第です。